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TRPGシステム考察

2.F.E.A.R.ゲーについて語る

最近日本のTRPGでスタンダードになりつつある、TRPGメーカー、ファー・イースト・アミューズメント・リサーチ(F.E.A.R.)。記憶の限りでは、「TOKYO N◎VA」から始まり、今日までたくさんのTRPGシステムを発表してる。

F.E.A.R.が本格的にTRPGシステムを量産し出したのは、「TOKYO N◎VA Revolution」(通称「N◎VA-R」)が発売された時期からだと思われる。後にそれほど経たずに「ブレイド・オブ・アルカナ」を発表したと記憶している。

「N◎VA-R」が発表されるまでは、「TOKTO N◎VA 2nd Ediition」とそれに関するサプリメントなどを出してつないでいたF.E.A.R.だが、如何せん「ソードワールド」などのシステムに比べてシステムが難解すぎ、ワールド設定が曖昧であるためいまいち伸び悩んでいたように感じられる。

日本のマンガ・アニメ界で変化があったころ。典型的なヒーロー・ヒロイン志向から、いわゆる「萌え」やダークヒーローといった方向へと作品の路線が切り替わっていく時期。日本ではあまり評価されていなかった「サイバーパンク」というジャンルが着目されるようになったり、ぐちゃぐちゃのどろどろなミュータント物が「カッコイイ」と認識されるようになったりしたのもこの時期ではないだろうか。

そんな時期に発表された「N◎VA-R」はブレイクした。2ndまでのゲスト(オフィシャルプレイヤーのキャスト)が登場するCDドラマやリプレイなどを発売していたこともあり、ある程度の知名度はあったため、その世界の中心となっている「パーソナリティーズ」「オーガニゼーション」の概念は案外容易に浸透した。

システム面においては、従来のトランプを使った判定方法は残して、カテゴライズされていた一般技能をひとまとめにして、特殊技能においてもある程度名文化された、扱いやすいものになった。この「N◎VA-R」が今日のF.E.A.R.ゲームの根本であることは間違いないだろう。

F.E.A.R.系のシステム

最近のF.E.A.R.が発表している、いわゆる「F.E.A.R.系システム」は、日本のTRPG業界においていまやスタンダードになっていると認識できる。

共通のシステムレイアウトを持ち、「F.E.A.R.系システム」をどれか一つでもやったことのあるプレイヤーなら容易にシステムに入り込めるのが特徴であり、他社製のシステムに比べて「売る」目的で作られている節がある。

「F.E.A.R.系システム」の具体的な特徴として、次のものが挙げられる。

  1. マルチクラス制
  2. 絶対的な局面を変える能力の存在
  3. 特殊技能の存在
  4. アイテムの常備化ルール
  5. 金銭が低価値
  6. 世界観がごった煮
  7. 演出・ストーリーを重要視
  8. シーン制のシナリオ運び・登場判定
  9. 経験点がプレイヤー・マスターに入る

マルチクラス制

「F.E.A.R.系システム」の最大の特徴である。N◎VAでいうならスタイル、BoAで言うならアルカナ

一種の職業や能力的なものをカテゴライズして、「○○ができる=●●●」という縮図を作り、それを複数取得することでキャラクターを組み立てやすくしているものである。

キャラクターの生い立ちや設定などもカテゴライズされていることが多く、キャラクターの背景設定が他のシステムに比べて容易に考えやすい。例えばN◎VAを例にすると、「元ボディガードの私立探偵。ヤクザと多少の関わりがある」とかいうとカブト・フェイト・レッガーといった風になる。

ただ、今日ではどのシステムに於てもこういった入り方をするプレイヤーは現在では珍しい。なぜなら、それは次のふたつの項目のせいだろう。

最近は他社からもマルチクラス制(多くはデュアルクラス)のシステムが出回っている、「F.E.A.R.系システム」が売れたことに感化されたこともあるとは思うが、スクウェア・エニックスの「ファイナル・ファンタジーXI」などに代表されるMMORPGにも影響された部分が多いのではないかと思う。

絶対的な局面を変える能力の存在

「絶対的な局面を変える能力」というのは、N◎VAにおいては「神業」、BoAにおいては「奇跡」、その他「シャードの加護」とか「血脈」とか呼ばれる、ルール的にどのルールよりも優先されて効果を発揮する能力のことである。

この能力は各クラス別々の能力であることが多く、だいたいがそのクラスの特徴を最大化したような効果であることが多い。

この能力は、だいたいがある局面に限定された使い方をするものであり、その局面によっては使い勝手のいいものと悪いものがある。使い勝手の悪いものが使えるクラス(スタイルなど)は、選ばれるのがはばかられる傾向にあり、あえて選ぶとしても1つしか入れない、とかだろう。

例えばN◎VAでフェイトやトーキーを2枚入れるとか、BoAでエフェクトス・レクス・オービスなどを2枚以上入れるとか、である。よほど独りよがりのプレイヤーでなければ、このような組み合わせのキャラクターを好んで作る人は多くはないだろう。これは、使い勝手が悪い=活躍できない、と単純思考で直結させる人が多いからであるのは否定できないだろう。

また、これでシナリオのバランスをとるマスターも多く、「推奨スタイル」なるものが生まれる要因になっている。オフィシャルのシナリオなんかでは、「神業用」(実際には表記していないが明らかにそうであると認識できるから)とかいうキャストの呼び方がほとんどのシナリオに出てくる。PC4・5あたりなんかはそうだろう。

特殊技能の存在

特殊技能(特技)とは、普通にどのキャラクターも修得できる一般技能と対比して、特定のクラスでしか修得できない技能のことである。

一般技能に比べて用途の幅は狭く、「特定の状況・特定の条件で使うための特殊な技能」と言う感じである。たとえば「戦闘中、手持ち武器で攻撃するときによりダメージを与える行動」とか、「ダメージを受けた際にそれを軽減するための能力」など、「Skill」ではなく「Ability」に近い存在である。

特殊技能は、システムによってはキャラクターを作成する際のキモにもなる要素である。特に「特殊技能の組み合わせ」が可能な「トーキョーN◎VA」や「ブレイド・オブ・アルカナ」などでは、有る程度の特殊技能の組み合わせを考慮に入れてキャラクター構築することが多い。

アイテムの常備化ルール

いままでのTRPGでは、アイテムは最初から持っているものであれなんであれ、壊れたり使ったりしたら失われるもの、というのが不文律だった。

これを覆したのがN◎VA-Rにおける「常備化ルール」である。アイテムを持つのに経験点を支払わなければならない代わりに、一度持ってしまったアイテムは、壊れようが使おうが、次のセッションには元に戻っていて使える、というものだ。顕著な例をいえば、「『北○の拳』の服はいくら破れても終わったら元に戻ってる」というのが挙げられる。

金銭が低価値

常備化ルールの導入に伴って、キャラクターの所持できる金額が毎回リセットされたりするルールなども導入されることもあり、金銭の価値が低下した。一部のシステムでは特殊技能として取得したもののみ「常備化」扱い、というシステムもあるが、ごく少数である。

「アレを買うために金貯めるんじゃーヽ(`Д´)ノ」というモチベーションが発生しないため、お金にこだわるキャラクターという、極めてスタンダードで、パーティーに一人はいてほしいキャラクターのステロが立ちにくく、アイテムを取得するのに経験点を必要とするため、プレイヤーのほうに「アレをとるために経験点貯めるんじゃーヽ(`Д´)ノ」というモチベーションが発生している。。  

世界観がごった煮

基本としているワールドはあるものの、各キャラクターやオーガニゼーションごとの世界観はごった煮闇鍋状態である。

これらの先駆けとして、「TORG」というシステムがある。「TORG」の世界では、各世界から寄り集まったヒーロー達が、それぞれを互いに認め合って団結して悪の首領と戦う、という世界背景があって成り立っているものである。

しかしながらF.E.A.R.系システムにおけるそれは、そういった世界的な指針もなく(むしろ否定されてたりすることもある)、各世界のキャラクターたちの行動理念はばらばらで、ただ単にいろんなジャンルを詰め込んでいるだけのように見え、私的観点では利点には見えない。

いろんなジャンルの世界観が混じっているのはそれだけ見れば悪いことではないが、それを認め合うのはプレイヤー依存、という実情もあり、プレイヤーたちは「結局なにすればいいの?」状態であることが多々ある。

演出・ストーリーを重要視/シーン制のシナリオ運び・登場判定

F.E.A.R.系のシステムでは、オフィシャルのシナリオは基本的に「お話重視」の傾向がある。

「主人公」が決められていて、それが「ヒロイン」もしくは「宿敵」と出会い、クライマックスでやり合う、というのが基本構造となっている。主人公以外は「脇役」で、あまつさえ主人公が「NPC」であったりする(つまりPCは全員「脇役」)こともしばしばある。

ストーリーを重視するために必要な要素として「シーン」があり、主人公が誰かはさておきPCそれぞれが動いた先のシーンを、そのPCを中心として進めていく、というのが一般的になっている。他のPCはその「シーン」に登場するために「登場判定」をするのである。

いままで行動していた時間軸や身柄の拘束などはまったく無視して登場できてしまうケースもあり、むしろそれを推奨するためのルールである可能性も高い。その辺の制限はマスターの判断によるが、ルール的には「常識で考えろ」程度にしかカバーしていない。

プレイヤー・マスターに経験値が入る

N◎VA-Rから導入されたルールで、セッションで得た経験値は、そのキャラクターではなくプレイヤーに入る。そしてなんと、マスターも経験値がもらえてしまうのである。

プレイヤーに経験値が入るのは、22のスタイルのうち3つしか使っていないキャラクターを延々と使うよりも、いろいろなスタイルの組み合わせを試して使ってみてほしいっていうオフィシャル側の意向であるような気もするが、理由は不明である。

また、マスターに入る経験値に関しては、N◎VA 2nd Editionの頃から、レコードシートの隅っこに「ルーラーに経験値をあげる」という項目はあった。が、これは儀礼的なもので、マスタリングをするときの指針として参考にしなさい程度のものだった。

現在のマスターに経験値が入る理由は、別のものだろう。TRPG業界の衰退の原因ともなった「マスターを好んでしたがる人が少ない」ことを憂慮して、進んでマスターをするように仕向けるために用意されたエサ、だと思われる。 以上の項目が全体的なシステムの特徴となるが、すべての要素を含まないF.E.A.R.発表のシステムも存在する。しかしこれらの項目をより多く含んだものが、「F.E.A.R.系システム」としては好まれる傾向にある。

また、「F.E.A.R.系システム」が現在受け入れられている理由は、こういったシステム面での共通性の他に、デザイナー側の運営面にもある。

エラッタ・FAQや追加要素などのサポートが豊富

F.E.A.R.は自社システムのサポート会員誌「ゲーマーズ・フィールド」によって、各システムのサポート記事や、追加特技・アイテムなどを発表している。

また、ネット社会の普及により、現在では「エラッタ」として普及している誤植の訂正を自社サイトのサポートページに掲載しているため、ルールの解釈が不明だった部分はそれぞれの解釈で使われるという事態が少なくなり、コンベンションなどでも共通のルール認識でプレイできるようになったことも挙げられる。

改版やサプリメントでしか訂正個所がわからない、という事実があった従前の状態を考えると、環境が整備されて然るべきであり、その点F.E.A.R.は「よくやった」と称賛するべき結果であろう。

ただ、ルール的な都合でエラッタが発表されたあとに制限が追加されたりすることもあるため、プレイヤーとしては、そういうアホな改訂をするぐらいならもうちょっと練り込んでからシステムを発表するべきだ、と感じざるを得ない。

最近ではこのルール改訂を、MMORPGのヴァージョンアップ・パッチになぞらえて「パッチ」と呼ばれることがある。

改訂版のルールが頻繁に発表

これはどちらかというと、デザイナー側の戦略と見れるだろう。

同タイトルの改訂版ルールを発表することで、そのシステムのファン層からの出費を促すというもので、人気があって売れたシステムに限って発表される。

もちろん、より扱いやすくという志もあるのだろうが、大量にサプリメントが出たあとにその改訂版も同じやりかたで同量のサプリメントを発表されると、「あこぎ」と見えてしまうのはしょうがないのではないだろうか。

人気のあるシステムならば、たとえ一冊にまとめて低価格で発売したとしても採算はとれるんだから、消費者的立場で考えるなら、現在のようなやりかたはやめてほしいものだと切に思う。

定期的にコンベンションを実施

内輪で集まるほど人数を集めれなかったり、周りに同じ趣味の人間がいなかったり、といった環境にいる人にとって、公の場に集まってTRPGのみを楽しめるコンベンションは、魅力的なイベントである。

F.E.A.R.は定期的に「GFコン」と呼ばれるF.E.A.R.系システムを中心としたTRPGコンベンションを主催している。また、ゲームデザイナー自らもそのコンベンションに参加するような形で、消費者たちとの垣根をなくして同じレベルでゲームを楽しんでいるのも特徴のひとつだ。

F.E.A.R.系システムの変革

今までのシステムに比べて、殆どの面で一線を画した仕様として登場したF.E.A.R.系のシステムだが、その中でも新しくシステムが発表されるごとにシステムレイアウトに変革が起きている。

そのシステム変革は、主に「プレイヤーにやさしく」という方向に変えられるのが常で、時には「ヌルい」と思われるほどの大変更を行っていることがある。

主に変更が行われるのは「曖昧なルール解釈」で、「トーキョーN◎VA Detonation」(N◎VA-D)が発売されたときには驚かされた。

「有利条件」「カブキのキー効果」など、Rのキモになっていたルールが次々と撤廃され、〈二刀流〉など様々なタイミングで使用できた特殊技能もデジタル化され、2nd→Rに変わった時に増して、さらに特技の用途が制限されることになった。

さらには、コンベンションでの単発セッションのみに照準を絞ったかのように、アクトコネの使い捨てなどのルールが追加(これはRRからだが)されたり、アウトフィットの常備化経験点が全体的にインフレしているなど、「より経験点を使うように」仕向けたシステムへと変貌している。

ただ、「DからN◎VAを遊ぶ人」にとってはわかりやすくなっており、「古参プレイヤーとの平均化」を計るという意味では成功しているのかもしれない。

言ってしまえば「TVゲーム的」になりつつあり、アナログ志向の緻密な戦術などを好む人にはあまり面白くないシステムと評価されている。が、今のTRPGプレイヤー層では、それは「少数意見」にすぎないため無視されている、というのが実状だろう。

F.E.A.R.系システムの弊害

F.E.A.R.系のシステムは、他社のシステムからみて、万人に受け入れられやすいシステムに仕上がっているのは前にも述べたとおりだ。しかし、一度ここに足を踏み入れると、その後に意外と多くの弊害が待ち受けている。それは主に、他のシステムをプレイしたときに感じることだろう。

例えば射撃攻撃である。F.E.A.R.系の大抵のシステムでは、戦闘の集団単位として「エンゲージ」というものが使われている。これはその中にいるそれぞれが互いに接敵状態にあることを示し、射撃攻撃をする際は目標が自分と同じエンゲージ内にいると攻撃ができない。ハッキリ言ってこれだけのルールでも納得は行かない。弓やライフルなど主に構えて狙いを定めて撃つ射撃武器ならそれも納得が行くかも知れないが、拳銃などは至近距離が一番威力を発揮する距離なのだ(初速と命中率の関係で、当たりやすくダメージも大きい)。そしてもうひとつ、離れると射線が通らなくなる可能性があるため、できるだけ接近して撃った方がいいのである。

F.E.A.R.系システムではこの射線のルールもなく、たとえ味方が目標と接近戦をしていようと、その頭越しから発射しても味方に当たる確率は0なのだ。したがって「味方に当たるかもしれない」という不安要素がなく、何も考えずに銃や弓を撃てるのだ。

こういった簡略化されたルールは、他のシステムをプレイする際の弊害を生み出し、その結果「F.E.A.R.系しかできない」プレイヤーが生まれる可能性が出てしまうのである。

実際先日起こったことである。わたしの内輪でもN◎VAやアルシャードなど、F.E.A.R.系システムが好んでプレイされている。久しぶりに「TORG」をプレイした時、PCがサブマシンガンを他のPCと接敵している状態の敵に向かって乱射したことに対し、誰も不思議に思わなかったのである。

それに気づいた時、さすがに「これはまずくないか?」と思った。F.E.A.R.系のリアルでない戦闘ルールに感化されすぎて、常識的な戦術を忘れてしまっている自分に気づいたのだ。

もし今までF.E.A.R.系システムしかやったことのないプレイヤーが、D&Dやソードワールドなどのシステムでプレイしたら・・・

最悪、平気で味方のいるまっただ中にファイアボールをたたき込んで、「え、味方にも当たるの?なんで?」みたいな反応をするプレイヤーが出て来そうで、正直怖い。それを避けるためにはマスターだけはしっかりとルールを把握し、そういった行動をとろうとしたプレイヤーに注意を促すことが重要となるだろう。

結論

こうしたことを総合して考えた結果、F.E.A.R.系のシステムは「おもちゃ箱」である。コアなTRPGプレイヤーには「子供臭い」とバカにされるが、遊んでみると面白い。そんな感じのシステムがF.E.A.R.系のシステムだろう。

緻密な戦術などほとんど要らない戦闘システムは、往年にホビージャパン社から発売されていた「TRPG福袋」の中に掲載されていたシステムのそれをちょっと細かくした程度のものとして見れるし、特殊技能などを考えてスタイルやアルカナを組み合わせるキャラクター作成法は、パズルの要素がふんだんに入っている。

ただ、そういった大雑把なシステムであるにもかかわらず、アニメやライトノベル風の世界設定やNPCなどには魅力があるのだろう。

また、ロールプレイ主体のプレイスタイルが流行る中、それほど緻密なルールなど要らない、と思われがちになっているのだろうか。ロールプレイをシステム側で推奨(強制)するようなシステムも存在することから、そうでもしないとロールプレイしない、という現状を受け入れざるをえないことに憂いを感じる。

いちプレイヤーとして、F.E.A.R.系システムの多くはは別に嫌いではないし、N◎VAに至ってはむしろ世界観を含めて好きな方だ。がしかし、D&Dやベーシックシステムのように、今となっては古典的(?)なシステムもプレイすることを強く推奨したい。そうすれば両者の違いが見えてくるし、なぜわたしがこれだけF.E.A.R.系システムについて語っているか、わかってもらえると思うからである。

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