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TRPGについて論ずる

その5…時は事件を解決するか?

以前わたしがプレイヤーとして参加したあるセッションにおいて、親の仇に出会ってしまった少女Aが、仇の男Bに対してどう反応したらいいか戸惑っている、というシーンがクライマックス直前に展開された。

ちなみにBは警官で、そのシナリオ中は警官PCの相棒である。そしてA、BともNPCである。

そのAの親というのが凶悪犯罪者で、逮捕されて獄中で死んだと伝えられていた。Aの親の検挙に一枚かんだのが、当時親友だったBである。

Aは孤児として預けられていた協会から金を盗みだし、プロの殺し屋を雇って仇であるBを殺そうとするが、ことごとく失敗(だって近くにPCがいたから)、果てにPCたちに居場所を見つけられ、前述のシーンに至っているわけである。

PCたちはこの場面をなんとか解決しようと試みるが、あるPCはこう言った。

「ここで無理に解決しようとしてどうする?あとは時が解決してくれるさ」

この時はクライマックス直前で、最後の黒幕(実は生きていたAの親父)が残っていたためそっちを優先しよう、ということになった。

だが、ここでわたしはふと疑問に思った。 「この問題は誰が解決するべきなんだ?時間に解決させていいのか?」 と。

TRPGにおいて、PCたちの前に展開される事象は、基本的にPCたちがどうにかできるようなものでなければならない、とわたしは思う。

ゲームマスターは、シーンで展開される物事に対しては、出来うる限りPCが介入できることを前提として作らなければならない。登場しているPCを尻目にムービー(登場しているPCの介入する余地が無いシーン進行)を映写するなど、持ってのほかの愚行だ。

この場でも、マスターはそういった意図でそのシーンを展開したんだろうと思う。

もちろん、リアルで言うならば親の仇だの仇討ちされるだのは個人の問題で、それに首を突っ込もうとする人間はそうそういないだろう。

しかしこれはTRPGという仮想現実の中で、目の前にぶら下げられた「問題提起」というエサである。

個人的な問題なので、シナリオのスケールから言ったら小さな問題ではあるが、放っておいては解決できるものも解決しない。

「時が解決する」などというのはウソッパチである。

そしてシーンとして存在してしまった以上、スルーしていい問題であるわけがなく、マスター側としてはむしろ「なんとかしてやってください」ぐらいの意図で、そのシーンを作っているのだと思っている。

それに、ちょっと視点を変えてみれば、Aは「親の仇を狙っているヒロイン」という美味しい立ち位置にいるのだ。この「ヒロイン」を人殺しにするのも更生させるのも、全て「ヒーロー」であるPCの手にかかっていることは頭に入れておいたほうがいい。

仮にもし、時(マスター)が解決してくれたとしても、結末は味気なく、心打たれるようなものにはならないであろう。なぜなら、そこに自分たちがいたわけでなく、TVで流れるニュースのように、後日談として淡々と受け流すしかないからだ。

わたしは「このままではなんか面白くない」と思ったため、セッションの終わり際にAにちょっかいを出してみた(別に「殺った」とか「姦った」とかそういう話ではない)。大事な場面でスルーした手前、大した解決法はとれないが、自分なりの結末をつけたかったからである。

この事例では、仇の関係にあったのがNPC同士だったことでこのような問題になったが、マスターはここで「仇はPC」だとか「PCの相棒を売られた」などといったことにしたほうが、よりPCたちがからみやすくなるだろう。

しかし、NPC同士の問題だったとしても、目の前にあるシーンに対して黙殺を決め込むのはちょっといただけない。お見合いじゃあるまいに、「後は若い人たちに」ってわけにはいかないだろう。

NPC同士の問題など、放っておいても解決などされないのだ。

TRPGでPCたちに求められるのは、「ことなかれ主義」ではなく、自ら事件に首を突っ込む積極性である。巻き込まれたり、依頼がないと何も出来ないPCは、「TRPGで普通の生活がしたい」とかいう一般人PCと同レベルである。

昔わたしの大学時代の先輩が「一般人は家に居ろ」という格言を作った。

冒険者ではなく、日がな農業に勤しみ、夜になったら家に入って飯を食って風呂に入って寝る、という平凡な暮らしをTRPGでやりたいなどという、冒険心のかけらもないPCを作るぐらいなら、「そのキャラクターは毎日を平凡に過ごしました」とか、「そのキャラクターは戦争にまきこまれて、何も出来ずに死にました」ということにして、新しく冒険意欲に満ちたキャラクターを作るべきだ、ということである。

程度の大小はあれ、シナリオを自分で動かす意欲のないPCは、この「一般人PC」と同レベルだ、ということなのだ。

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