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TRPGについて論ずる

その7…非常識の末路は

TRPGにおいてプレイヤーの操るPCは、お話で言えば主人公である。また、多種多様な能力を持ち、一般人よりも秀でているために、「何をやっても(結果的には)許される」と勘違いしているプレイヤーが多い。

「ヒーロー・ヒロインは勝って然るべきだ」というのは確かに間違ってはいない。が、傍若無人を尽くすヒーローに、ヒーローたる価値が果たしてあるだろうか。

PCたちは、物語の主人公であれ、TRPGのワールドの中の一住人に過ぎない。ワールドの中には社会があり、その社会の中で生きている人々の中にPCも存在するのだ。

社会に存在しないPCなどほぼありなえい。たとえ反社会的な地位にいる者だとしても、反社会的社会というのが存在し、そちらの礼儀やらルールやらがあるのだ。

社会的地位によって異なるが、この社会ルールに対する拘束は、PCの行動を大幅に制限する。
例えファンタジーの世界の冒険者だったとしても、街の往来のど真ん中で何の理由もなしに人を殺したらたとえPCであろうとも打ち首である。

どんな社会にしても、その社会ルールは基本的に「道徳的」なものである。社会的拘束の緩いタイプの職業であったとしても、プレイヤーは「道徳的な行動としての常識」はわきまえて置くべきだろう。そしてその一線を越えるのならば、それなりの覚悟をしなければならない。

最近この辺で「PCは絶対死なない」とタカをくくっている者が多い。実際最近のシステムでは、PCが死ににくく作られており(D&Dに比べるとソードワールドですらも「死ににくいシステム」だが)、戦闘で事故死する確率が極端に低い。

また、一般的なNPCよりもPCのほうが極端に強いため、街中で愚行を働いたからといって警邏中の騎士に捕まるようなことは、プレイヤー側が望まないかぎり有りえない。

リアルで考えるなら、ニューヨーク市警の取調室で取り調べ中の容疑者を、いかに事件の解決が早まるからといって真っ正面から銃を持って乗り込み脱走の手助けをするようなもんで、そんなことをやったら周りの警官たちに蜂の巣にされてジ・エンドである。

※映画などではよくある光景だが、アレは事件の解決までを描いている作品が大部分を占めるため、その後の主人公の扱いについては語られていない。続編が出ると、主人公は必ずと言っていいほど閑職に追いやられている。

企業エージェントが、上司になんの提案もせず、指示も受けずに社の方針に背いた行動を選択するのも然りだ。

これらの行動は、「PCだから事件を解決すればお咎めなしになる」と思い込んでいるからだ。

よく「あなたの好きにしなさい」という組織の上司NPCがいたりするが、これはただ単に「後先考えず傍若無人の限りを尽くせ」と言っているのではないことを認識してもらいたい。

彼らは「社会に与するものとしての良識を前提として、その範囲内で自律行動を行いなさい」と言っているに過ぎない。これは逆に、「範囲外の行動に関しては当方は関知せず、またその行動によって当方に損害が出た場合、当方による制裁の対象と成りうる」と言っているのだ。ここでいう当方とは、依頼側の企業や組織のことを言う。

非合法エージェントや暗殺者ギルドの暗殺者などならば、元々合法でない手段も範疇に入っているので、組織に損害を与えなければどんなことをしても許されるだろうが、警察や政府など、合法組織に属する者は社会的拘束が激しくなる。

これはフリーランスだったとしても、組織の依頼を受けてしまった時点で、その組織社会に与するものとして扱われるため、その組織に損害や不利益を出すような真似を積極的に行ってはならず、出来る範囲で組織の意向に従わねばならない。

というのが一般的な観点で見た常識である。もちろんPCには別の「自分の常識」が存在するので、その常識に従う者もいるだろう。が、社会的な制裁を恐れるならば、前述の一般的な社会常識にしたがって行動すべきなのは確かである。

たまーにいるのだが、自分のとった非常識きわまりない行動を棚に上げて、マスターがそのPCに与えた制裁に対して不満をたらたらともらすプレイヤーには、たぶん「どの辺が常識を逸したのか」がわかってないのだろう。

そういうときは、マスター側で「アンタはこんだけ非常識なことをしたんですよ」と説明した上での制裁を行うのが望ましい。マスター本人からでも、NPCに言わせるのでもどちらでも構わない。でないとそのプレイヤーの中ではマスターは「面白くないマスター」として認識されるだけになってしまい、自分の愚行を省みないからだ。

愚行PCに対する制裁の例もいろいろあるが、ファンタジー世界における盗賊ギルドを例にとってみよう。

盗賊ギルドにおける違反行為といえば、ギルドに許可を得ないで行う盗賊行為やギルドからの依頼以外の同業者による暗殺行為などで、「縄張り(シマ)荒らし」と呼ばれることが多い。この行為は、だいたいのワールドで共通してギルド間、もしくはギルドに所属しない盗賊の間では常識中の常識として御法度になっている。

こういった裏社会でのルールを何も知らずに能力だけ見てシーフをやりたがる(ソードワールドなどは最たるものだろう)プレイヤーがいるので、そういうプレイヤーにはシーフが勝手をするリスクに関して教えてやらねばならない。

※ただし、ワールド背景でシーフが「専業盗賊」ではなく「パーティ内での役割としてのシーフ」になっている場合はその限りではない、としておく。この二つの大きな違いは、「ギルドに所属しなければならないかどうか」という点で、逆に職業がしっかり決められていないシステムでも、盗賊ギルドが存在しており、PCが同様の「縄張り荒らし」をした場合、ギルドからの制裁の対象になると思ってよい。

話を戻すが、そういった荒らし行為をPCがしてしまった場合、一晩たたずに情報はギルドに知れ渡ると思ってよい。

自分が違反行為をした、と認識していないPCは、のうのうと宿屋に泊まるため、居場所などはすぐに察知される。そうすると、やった行為にもよるが、暗殺者が送られるか拉致されて拷問を受けるか、など、まぁいろいろある。

暗殺者を送る場合はその場で戦闘になるのでわかりやすいが、当事者のプレイヤーはなぜこうなったかわからないかもしれない(だって常識がないんだもの)。暗殺者が撃退されたなら、その旨を死に際のセリフにでも入れてプレイヤーに知らせてやるとよい。そうすればまた暗殺者が襲ってくるかも知れない恐怖を煽ることができるし、それを知った他の良識のあるプレイヤーがギルドに出向するのを勧めてくれるかも知れない。

拉致する場合、PCが寝ている間に問答無用で、がいいだろう。PCの目が覚めたとき、そこは自分の寝てた宿屋のベッドではなく、薄暗いジメジメした盗賊ギルドの石畳の上だったりするのだ。

経緯はどうあれ、ギルドの頭領に会うことになるだろう。一般人から見れば盗賊などどれも同じ悪党だが、ギルドのルールから見れば、悪いのはどう見てもPCである。捕まってしまった以上、どうされようと文句のつけようはない。

条件の提案としてはいろいろあるが、相手がPCということも考えてショバ代を通常の2〜10倍ぐらいの値段でふっかけてやれば、「無理」という者がほとんどだろう。でも支払わなければ、足に岩をくくりつけられて川に沈められたり、その場で惨殺されて街のど真ん中にさらされたり、といずれも他のよそ者に対しての見せしめとしての死あるのみである、ということを脅し文句混じりにPCに教えるべきだろう。

必死に謝罪や懇願をしてくるようなら、ギルド側はシナリオがらみの話を持ちだして、上前をはねる方向に切り替える、という妥協案を提示するのだ。

ダンジョンに潜る予定だったのなら、見つけた財宝のそのPCの取り分の8割を納めさせるとか、ショバ代にも勝る重要な情報を手に入れたのならギルドの方にも情報を回させるとかである。

PCと同様なよそ者が縄張りを荒らしてるようなら、そいつを殺ればチャラにすると提案しても良い。ただこの場合、終った後にショバ代は払わせる方がギルドの頭領としてはスマートであろう。

また、その街を統括する盗賊ギルドは義賊だったということにしてもいい。町民からすったり、殺しをはたらいたりした者は真っ先に制裁の対象になるからである。

ただここで、普通のギルドと同じような制裁方法をとってはそれこそ義賊の名折れなので、ここは義賊らしい提案をするよう考慮すべきだろう。

ここまでの妥協点に到達するには、プレイヤー側の交渉能力や説得力も影響してくる。交渉の余地を作らずに「オレは悪くない」の一点張りならすぐ殺されても文句は言えない。翌朝、彼のベッドがもぬけのからであることに気付いた他のPCたちからも不満が出るかも知れない。が、そこはそれである。一匹狼を気取るシーフくずれには、ギルドの威厳を見せてやらねばならないだろう。そして組織に与さないリスクを身をもって感じさせるべきなのである。

また、ギルドの違反行為を働いたPCに対しては、絶対に得をさせてはならない。得をさせてしまっては、そのプレイヤーは何も学ばないからである。見逃すための条件は、よりシビアに、よりギルドに金が入るようにすべきだろう。他のPCたちも認めるというのなら、連帯責任という形をとらせてもいい。

これは他のゲームにおけるフリーランスにも言えることで、殺し屋や暗殺者、スナイパーなどが仕事をする時にも同様であり、シナリオの都合で依頼を受けたというのでないかぎりは、そういった犯罪行為に対してマスターは目を光らせるべきである。

反社会的行動をとったPCに対しての制裁は、あまりやりすぎるとプレイヤーから「ひどいマスター」と敬遠されてしまうので、ほどほどにするべきだろう。そして、PCに対してプレイ内で制裁行為を行った場合、プレイが終った後にでも、どうしてああいう事態に発展したのか、ということをディスカッションするのがいいだろう。

さて、これまでは反社会的プレイヤーに対してマスターが行うべきことを述べてきたが、こう言った行為に対してマスターだけが目を光らせなければならないわけではない。むしろ直接セッション上で接点を持つプレイヤーこそが気をつけるべきだろう。

サイバーパンクなどの近未来ものや、現代物など、PC各々がスタンドアローンになりがちなシステムにおいては、PC同士の立場も真逆になって対立関係を生むという事態が少なからず発生する。ファンタジーもののPTにおいても、騎士と盗賊が同一PTにいるなど日常茶飯事である。

法を守る者と裏社会に生きる者がセッション内に同居した場合、最近の卓ではリアルではありえない、「最初から協力関係」という構図が多々見受けられる。

こう言った、社会的に対立関係にあるPC同士では、プレイヤー間での妥協でなあなあとやっていたのでは、プレイの緊張感がそがれるというものだ。

ファンタジー世界のPT内のメンバー間の意見の相違については、もともと協力関係にあった二者の意見が対立した、という程度でどちらかが優位という構図は存在しない(どちらかがPTリーダーで無いかぎりは)。

が、一般的法治社会における警察と犯罪者の関係は、道徳として「善悪」が決められているため、あくまで社会的優位性は警察側にある。だから犯罪を犯した犯罪者は「逃げる」し、警察は「追う」のである。

こういった縮図における双方の妥協の上での協力関係は、PCとしての会話レベルで成り立たせるのであって、プレイヤー間での交友関係のもとに成り立たせるべきではない。そうしてしまうと「警察は犯罪者を追いつめるものだ」という不文律が崩れ、警察側の優位性が失われるからである。

このような、対立関係にある二者によって共同作業を促すことは、実際は非常に難しいが、TRPGの中ではプレイヤー同士の胸先三寸でものの2秒もあればオトモダチになったりできる。

もともとリアルじゃない世界でリアルを追及するということは滑稽に見えるかもしれない。が、こういった基本的な社会の土台を崩してあるところからなあなあで遊ぶことのつまらなさは、たびたび実感することもある。

とはいえ、セッション中ずっと敵対関係を維持せよ、とも協力するな、とも言っているわけではない。

最終的に妥協点を見つけるまでの敵対者との駆け引きを、いまある社会的立場として楽しんでほしい、と言うことだ。

そのためにはマスター側でも、セッション中両者に同一の目的を与えるなど、妥協するためのファクターを内包してやらねばならないだろう。ただ単に、敵対者同士で敵対するだけの構図というのは、妥協点を見つけるためにはプレイヤーの技量とPCそのものの性格などに依存しなければならない分、リスクが大きいのである。

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