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TRPGについて論ずる

その8…NPCの舞台裏

TRPGのセッション内では、基本的にPCが動いた場面がシーンになり、表舞台となる。それ以外は全て舞台裏となり、表舞台でマスターが指定して登場しているPC以外のキャラクター(PCもNPCも)皆舞台裏にいることになる。

ここで時々見られるのは、敵NPCの暗躍をシーンにして見せる、という手だ。

ドラマや映画などではよくある表現だが、TRPGでやるとなると、わたしとしてはあまり歓迎したくない。なぜなら、それがセッションを面白くなくする原因にもなりうるからである。

まず何といってもシーン上にPCがいない。前述したように、TRPGのセッションは、PCがシーンを動かすものである。プレイヤーが事態を把握し、今後の顛末を推理することもTRPGの面白さのひとつであると言ってよい。

ここで舞台裏に引っ込んでいるべきNPCの暗躍するシーンを作ると、わざわざ事件の黒幕が誰かを教えてしまっているようなものだし、それによって推理・予測する面白さが半減してしまう。

例を挙げてみよう。

PCたちはある連続殺人事件に巻き込まれ、事件の解決をすることになった。

現場を一通り調べてみるが、なかなか捜査は進展しない。PCたちが捜査に四苦八苦しているうちに、次の犠牲者が出てしまった。

このシチュエーションにおいて考えてみよう。

マスターの暗躍シーンが入るとしたら、「PCたちが捜査に四苦八苦・・・・次の犠牲者が出てしまった」というところだろう。

ではここで、次の犠牲者が殺されるシーンを作ったとすると、どうなるか。

マスターに表現力があれば、そのシーンは臨場感のある、スリルに満ちたシーンになるだろう。しかしながら、プレイヤーとしては拍子抜けである。

なぜなら、「次の犠牲者が死ぬ」ということをPCよりも先にプレイヤーが知ってしまうからだ。

プレイヤーがPCの行動に先んじて事件の真実を推理したり予測したりするのは構わないと思う。ただ、シナリオ中に起こった事実は、プレイヤーとPCは同時に知るべきだろう。でなければ、「早くしないと次の犠牲者が出る」と解決を急ごうとする捜査シーンでの緊迫感が、プレイヤーが先に犠牲者が出る、というのを知ることで途切れてしまい、今までの雰囲気が台なしになってしまうことがあるのだ。

このようなシナリオの場合、たいていは犠牲者が出る人数は決められていて、それまで事件は進展しないものが多く、プレイヤーに要らぬ倦怠感を持たせることになる。

「進展していないと見せかけておいて実はリアルで事件は進行しており、PC達は核心に近づいていて、あることに気づけば一気に事件は急展開を迎える」という遠回しなテクニックとして使うことも可能だが、そうするためにはマスターに相当の技量が必要であろう。それにこういうやり方で進めるのにNPCのシーンなどなくてもいい。

ドラマやアニメにはよく、主人公たちのシーンの合間に黒幕っぽい影が部下に次の指示を出すシーンなどが入ることがある。

TRPGに置き換えてみよう。登場する全てのキャラクターがPC(黒幕ですらも)なのだ、と考えるなら、黒幕の暗躍シーンは「黒幕PCのシーン」と考えられる。

要はドラマやアニメなどの視聴を目的とした作品では、PC・NPCという垣根が存在しないので、全員がマスターの操るNPCで、プレイヤーは外で「ただ見てるだけ」か、全員PCでマスターの作るワールドの中で個々に動いている、と考えるのが妥当である。

前者の場合、マスターは監督、プレイヤーは視聴者である。全員NPCなのだから、プレイヤーの関与するところはひとつもない。マスターがシーンだけを流し、それをプレイヤーは見てるだけである。

後者の場合、全員がPCなのだから、全キャラクターにシーンを回すというのはセッション上当たり前のことであり、プレイヤー同士敵味方に分かれることもある。

これらはあくまでTRPG的に解釈したのであって、実際にTRPGでこんなことがあったらセッションは破綻する場合が確実に多いだろうし、マスターはPC達が動くのをただ見守るだけの存在でしかなくなる。

そしてPC(味方側)とNPC(敵側)の役割がはっきり分かれているTRPGで、上と同様のストーリーテリングをすることは、普通に考えてもナンセンスであることは明確だろう。

ではNPCの動きをどうやって見せるか?ということを考えてみよう。

NPCがどう動いてるかをPCにマスターから知らせる、ということは、シナリオのネタや伏線をバラすことに等しい行為だと思ったほうがいい。

NPCの動きは、PCがNPCの動きを察知するために、能動的に動かない限りは伝える必要はない、とわたしは考える。ただ、PCの行動を促すための最低限の情報は伝えた方がいいだろう。

NPCの行動は、PCの動きにあわせて裏でプロットしておけば、シナリオ進行上での矛盾が発生することがない。

NPCがどういう行動に出るかを全て伝えては、プレイヤーがNPCの行動を予想することがなくなってしまうため、プレイ進行上はスムーズになるが、今後においてプレイヤーの想像力や行動力が貧困になってしまう。

PCが動いたところにある情報を与えるのが基本的なマスタリングだ。パズルのピースをひとつずつ与えて、プレイヤーにパズルを組み立てさせるのである。

プレイヤー側に情報がだいたいそろったら、プレイヤーの予測がおおむね正しくても、ぜんぜん的外れだったとしても、クライマックスへ移行してもいいだろう。

そこでNPCの正体が暴露され、今までもやがかかっていた情報が一気に晴れたとき、より一層の盛り上がりを見せるのではないだろうか。

ただ、あまりにも小出しにしたり、出した情報が不明瞭だったりすると、捜査に時間がかかってしまい、プレイ時間が必然的に長くなってダレる原因にもなりかねない。その辺の情報操作は難しいところだが、慣れてくるまでがんばるしかない(現に自分もあんまりその辺上手いとはいえない)。

ここでひとつ、マスターをするに当たって肝に銘じておかなければならない格言をひとつ。

「プレイヤーは、マスターが思っているよりもバカである」

「これは気づくだろ」と思って出した情報も、プレイヤーは案外気づかないものなのである。ある程度わかりやすく情報を与えないと、プレイヤーが悩み続けて要らぬ時間を食うことがある。

「謎解き」などはTRPGの醍醐味のひとつであるが、あまりにも不可解な「謎」は、プレイ進行の妨げにしかならないので気をつけるべきだろうし、あまりにも容易なストーリーテリングは、逆に物足りなさを感じさせてしまう。

その辺のバランス取りの難しさを試行錯誤するのがマスターの醍醐味であると言えるだろう。

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