N◎VA軍は、軍用の戦闘補助システムとして、かつて『電脳聖母事件』で失われた『オメガシステム』系A.I.を限りなく模倣した、『T.A.C.O.S.S.(タコス)』(for Tactical And Combat Obey Support System 戦術および戦闘における従属型サポートシステム)を開発した。
『T.A.C.O.S.S.』は何体かの戦闘用ドロイドに組み込まれ、運用試験が行われた。起動までは順調かのように見えたが、システムの欠陥が判明することになる。
その欠陥とは、A.I.の有する学習機能の学習スピードが非常に遅く、自己管理能力と状況把握・判断力が欠如していたことであった。
「大器晩成型A.I.」といえば聞こえはいいが、学習スピードが並の人間以下であるのは軍用A.I.として致命的である。おかげでロールアウト後3ヶ月経ってもまだ、知識レベルは赤ん坊並だった。
学習能力の大幅に劣る『T.A.C.O.S.S.』搭載ドロイドは、迅速な判断を要する戦闘時の処理についていけず、戦闘運用試験中に機能障害で調整中だった一体を残して全て大破した。
軍用即戦力としてまったく使えないことが判明した『T.A.C.O.S.S.』搭載機は、本来ならば廃棄処分であったが、「軍事費用のむだ遣い」を批判される事を懸念した政府は、ブラックハウンド本部に「払い下げ品」ではなく「新規導入戦力」と称して配備することを決定した。
その際、軍用ではなく警察機構の捜査用であることをA.I.にも自覚させるべく、システム名称も「C.A.R.I.S=C.A.R.I.S.(カリス・カリス)」(Can Autonomic Run Interface System for Combat And Rapidly Investigation Support 戦闘および迅速な捜査補助のための自律行動可能なインターフェイス大系)と改められ、フレーム(胴体)を含めた機体自体の名称となり、論理記憶回路にも刑事事件捜査における基本プロセスが追加して組み込まれた。
人格フォーマットは軍用A.I.のそれと同じであるが、学習する事によって様々な表現描写を模倣できる。
カリス・カリス自身は学習意欲も高く、もともと従属型のシステムのため「マスター」として登録された人間の言う事は、「遵守システム」より優先して、なんでも聞く。(情報収集用デバイスとしても機能するように、法遵守システム及びロボット三原則は組み込まれていない。)
加えて朴訥であるため、「やってみろ」と言われると自己判断無しになんでも模倣しようとする。他の隊員がビールを美味そうに飲んでいるのを見て、同じ事をやって機能停止に陥るとか、ストリートで一般市民を殴って情報を聞き出そうとしたりとか、悩みの種は尽きない。
とはいえ、元々軍の戦闘補助のためのシステムなので、筐体の頑丈さと、緊急判断による「マスター」の庇護能力は極めて高く、WEBにおける捜査能力もウィザード級である。
※『マスター』とは
組織的に言えば「上司」「先輩」に当たる言葉をひっくるめて『マスター』と言う。
だからBH内の全ての隊員が彼女にとっての『マスター』であり、加えて非常時に於いて、BH隊員が協力を要請した他組織の人物及びフリーランスも、隊員権限により優先最下位の『マスター』とすることができる。
指令受理の優先度は役職によって設定されており、『マスター』の命令を基準にして捜査方針を独自に構築し、自律行動を行う、ハズである。