中世イングランドの偉大なる王、アーサー=ペンドラゴンの佩刀で、「剣」と言ったらエクスカリバー、というぐらいには世界的に有名な剣だ。
エクスカリバーは、湖の貴婦人から授かった、魔力のこもった剣である。
その剣の切れ味も優れたものであったが、特筆すべき点はその鞘にある。エクスカリバーの鞘には傷をうけても血を流さなくなるという魔力が込められており、実質エクスカリバーの力は剣そのものよりもこの鞘に集約されている。
アーサー王がエクスカリバーを手にする際、魔術師マーリンは「剣が大事か、鞘が大事か」と問うた。アーサー王はそれに「もちろん剣にきまっている」と答えた。今考えると、この答えが後のアーサーの運命を決定づけてしまう呪いの言葉のようなものだったのではなかろうかと思う。
アーサーが息子のモードレットの謀反による内紛で命を落としたときは、異父姉であるモルガン・ル・フェイの策略によってエクスカリバーの鞘は持っていなかった。
アーサー王の持つ剣の名前は、11世紀後半に書かれた「マギノビオン」では「カレトブルッフ(Caledfwlch)」と呼ばれている。これはアルスター神話(アイルランドの氏族の伝承)の中に登場する、「カラドボルグ(Caladbolg)」の名前に合わせて創造されたものと言われるが、当時のブリテンとアイルランドの部族関係を考えるとその説はあやしいようである。
このことを知ってか、ジェフリー・オブ・モンマスは「ブリテン列王記」で「カリブルヌス(Caliburnus)」という名前で書いた。英語風に読むと「カリバーン(Caliburn)」となる。
ジェフリーの書いたものは、フランスでロバート・ワースによって翻訳され、その中では「カリブール(Calibor)」となっている。その後クレティアン・ド・トロワによって「エスカリブール(Escalibor)」と書かれた。
もともと不要語、というか意味のわからないes(「そして」という意味のetの読み間違いじゃないかという説もある)のついた「エスカリブール」は、トーマス・マロリーによってesがexに変換され、「エクスカリボー(Excalibor)」となる。そしてブリテン島に渡った際、「エクスカリバー(Excalibur)」と呼ばれ、世に知れ渡るようになったのである。
トーマス・マロリーの著する一連のアーサー王伝説では、アーサー王が剣を手に入れるエピソードが二つあり、矛盾が生じている。両方ともマロリーが参考にした物語の中には含まれておらず、マロリーが後付けしたエピソードである。その中でも有名な「石の台座から剣を抜く」というエピソードに関しては、北欧の伝承である「ヴォルスンガ・サガ」で、英雄シグムントがグラムを抜いたエピソードを真似たんじゃないかと勘ぐりたくなるぐらい酷似している(逆かもしれんが)、
この矛盾を回避するため、巷ではアーサー王が石の台座から引き抜いた剣を「カリバーン」、そのカリバーンがベリノア王との戦いで折られ、後に湖の妖精の力によってカリバーンを打ち直したので「Ex+カリバーン」で「エクスカリバー」となった、と言う風に解釈されているようである。
また、異説としては台座から抜いた剣と湖の妖精にもらった剣は全くの別物で、折れた剣=王の証の剣はエクスカリバー(カリバーン)ではなかった、とするものもある。